私たちは無料低額診療事業を始めています

「無料定額診療制度」というのは知らない人が多いようですが、
こんな制度があること自体、日本の医療制度がいかに「社会保障」として
しっかりしたものであるかを、改めて実感させられますね。

宮崎

持ち出しがある事業なので、
厳しい経営の中でとても…という人たちもいます。
でも今の制度を現場から変えていき、
医療をしっかり提供するという二つの運動をすることが
非常に大事だと考えています。

現場から変えてゆく...素晴らしい取り組みですね。

宮崎

僕が診察していて感じるのは、糖尿病患者さんは経済的にも仕事のうえでも
ずいぶん苦労されています。最近特に若い非正規労働などの方が、
ストレスフルな日常生活やジャンクフードで
カロリーリッチなものを摂取し続けて
糖尿病になっていく図式があるのです。

日本の糖尿病はアメリカの貧困肥満と同様、
貧困格差がある社会と深く関係している!?

宮崎

中国や発展途上国で糖尿病が増えている。
これは、日本の高度成長の時と同じ、それを後追いしているんです。
でも今の日本は違う。
OECD加盟国の中で相対的貧困率がアメリカについで
世界第4位の16%になっています。

なるほど。貧困層こそ糖尿になってゆくというのは、
まさにアメリカの貧困肥満と同じ構造ですね。

宮崎

そうです。きちんと貧困の問題を解決しないと、糖尿病はますます増えると思います。

アメリカの投資家が透析センターや介護施設を
上陸させたくてしょうがないのは、大きな収益が望めるからなんですが、
確かに貧困層なら、糖尿病になってからすぐに悪化して
透析に移行してしまうでしょうね。

宮崎

糖尿病と診断されて、適切な食事療法と、睡眠、野菜をしっかりとるなど
正論を言ったところで、仕事があるかないかの人たちに、
そんな生活ができるわけ無いじゃないですか…。
そういうことが構造的にあるのが糖尿病という病です。

それは非常に象徴的な話ですね。
かつては飽食病だといわれていた糖尿病も、今では社会構造によって
作り出される病気になっているということですね。

宮崎

そうです。貧困をどうするか、
仕事をどうするかということを一方で考えないと…。
アメリカではフードスタンプ受給者の栄養状態が劣化して…、
死亡率が高いということが書かれていましたね。

加工食品とファストフード業界は
ピンポイントで貧困層の子どもを狙う

アメリカの加工食品とファストフードの業界は
完全にピンポイントで貧困層の子どもだけを狙った
マーケティングに力を入れます。

宮崎

貧困層の子どもだけ?

子どもの頃に加工食品とジャンクフードを食べていれば、
そのまま大人になって親になっても食べ続けてくれますから。
ビジネスとしては効率が良いんですね。

宮崎

なるほど…どうしましょうかね。

私たちがこうしたことに関心を持ち、
真実をみるんだという意思を持つだけで結果は違ってきます。
たとえば南米では、アルゼンチンはまたIMFにやられちゃいましたけど、
ボリビアやエクアドル、ベネズエラなんかは、真実を広めて
投票で一つ一つひっくり返している。
アメリカでもオバマケアで医療費や薬や医療保険料がどんどんあがるのに耐えきれず、
各地の地方自治体レベルで女性を中心に抵抗の波が広がりはじめています。
アメリカでも介護の担い手は女性なので、彼女たちは真剣です。
こうした動きは大手商業メディアに出てこないだけで、
確実に進んでいますね。

宮崎

本当にそうですね。

この本が発売一か月で16万部売れたとき、
日本にはいまそれだけ危機感を持つ人が沢山いることを実感しました。
情報を求めて活字に手を伸ばす人が、まだまだいる国なのです。
日本の未来はまだ大丈夫だ、そう思い、間を開けずに
すぐ続編の執筆に取りかかりました。

憲法25条は宝物。これこそ世界に輸出したい!

こんなにすばらしい憲法25条があり、
先人が時間をかけて国民皆保険制度を作った国です。
もちろん持続可能にしてゆくためには今のままではだめで、
沢山の国民的議論と改善が必要でしょうが、
少なくとも「国が責任を持って国民のいのちと健康を守る」という共同の精神だけは
売り渡してはなりません。
医療を商品にした国の末路がどうなるかは、アメリカの現実をしっかり見てほしい。
政治家は変えられますが、制度というのは一度売ってしまったら
取り戻すのはものすごく難しい、アメリカをみればそれがよくわかります。
安倍総理は「医療を成長産業にする」とおっしゃっている、大賛成です。
ただしそれは、外資や投資家たちのマネーゲームの一つとしてではなく、
私たち日本人にとっての宝を守る形で、
世界に胸を張って輸出できるものでなければなりません。
世界は最速で高齢化する日本をじっとみています。
私は日本は、安心してしあわせに年を重ねて行ける社会を世界に示す、
ロールモデルになる道を選べると思っています。

宮崎

全くそのとおりです。
ところで、堤さん次回作の出版が5月と聞いています、
タイトルは決まっているんですか?

はい。『沈みゆく大国アメリカ~逃げ切れ日本!編~』(集英社新書)が
GW明けに完工予定です。

宮崎

これだけよく取材して、とても大変でしょう……
非常に価値ある内容だと思っています。
次回作も大いに楽しみです、期待しています。
今日の対談で改めて勇気をいただきました。
ありがとうございました。

私の方こそ、いろいろお話を伺って
大変勉強になりました。
今日は本当にありがとうございました。

『沈みゆく大国アメリカ』 堤未果著(集英社文庫) 2014年、アメリカの国民皆保険制度、通称「オバマケア」が施行された。医療後進国のアメリカでは無保険者が6000万人を超えている。そんな低所得層を救う期待の保険として、鳴り物入りでスタートした「オバマケア」だったが、実は恐るべき悲劇をアメリカ社会にもたらした。保険料はむしろ値上がりし、違反者には罰金が課せられ、企業は社員の保険加入が義務付けられたため、フルタイムからパートタイムへ降格される社員が増加。医師は保険会社と医事訴訟の板挟みでさらに激務となり自殺者も増えた。さらに「がん治療は自己負担、安楽死なら保険適用」「高齢者は高額手術より痛み止めで OK」「一粒10万円の薬」「保険証を握りしめながら医師の前で死亡」などなど、にわかに信じがたい衝撃の事実が次々と表面化した。これらはフィクションなどではなく、これまで石油、農業、食、教育、金融の分野で巨万の富を蓄積してきた「1%の超・富裕層たち」がついに「医療」の分野をターゲットにした戦略だというのだ。渾身の取材力で「オバマケア」の実態をルポした著者の堤未果は最後にこう警告する。「アメリカ発のオバマケアが次に狙っているのは日本だ!」と。
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