宮崎
堤さんが書かれたこの本『沈みゆく大国アメリカ』は、衝撃的でした。
医療関係者ですら、にわかに信じがたいことが書かれています。
ぜひもっと多くの人にこの本に書かれている
アメリカの真実を知ってもらいたい!
そう思いまして今回、対談をお願いしました。
宮崎
私たちが日本の医療問題を考えるうえで、
どうしてもアメリカのことを抜きに考えられない‥‥。
本の冒頭に、2010年4月に亡くなられたお父様(ジャーナリスト・ばばこういち氏)とのエピソードが書かれていて印象的です。
お父様は糖尿病で、人工透析されていて‥‥。
それで闘病中に国民皆保険のある日本で良かったとおっしゃって‥‥。
堤
はい。父は最後3年間は週に3回人工透析を受けながら仕事を続け、
2010年1月に倒れて病院に運ばれてからは、
ICUと普通病棟を行ったり来たりの3か月間でした。
入院中、「国民皆保険制度がなかったら自分は悲惨な最期を迎えただろう」と
何度もつぶやき、「この国の宝であるこの制度を何としてでも守ってくれ」という
最期の言葉から、このアメリカ版皆保険制度「オバマケア」に
ついての本が生まれたのです。
宮崎
この本の大きな特徴は、オバマケア‥‥アメリカの皆保険制度も、
マネー資本主義の発展形であり、ついに医療も商品化されてきた。
そこを鋭く追求して書かれているところだと思います。
対談の日は雨。
青山のとある建物の中での
ワンショット。
堤
おっしゃる通りです。読む人が読めばわかると思いますが、
この本は単なる医療保険の話ではありません。
80年代のレーガン政権以降、アメリカの1%の超・富裕層が、
石油、農業、食、教育、金融など、様々な領域を解体し、国家を
株式会社化していった流れの中のひとつなのです。
今回オバマ政権下で手をつけたのが“医療”だったこと、
そしてそれが今の日本にとって、他人ごとではない
分野の一つであることこそが問題なのです。
アメリカ版国民皆保険「オバマケア」の実態とは?!
堤
「オバマケア」を単なる医療保険制度改革として単一にみてしまうと、
大局がみえなくなってしまいます。
日本では「皆保険制度?アメリカは無保険者が多いみたいだから、
日本と同じ制度にするのはいいことだ、オバマ大統領よく頑張りましたね」
という声がとても多いのですが、アメリカの「オバマケア」と
日本の国民皆保険は180度違うものです。
堤
この「医療保険制度改革」が出てくる前段として、ここ30年の
アメリカの変化をまず見てください。
リーマンショックで私たちも目の当たりにしましたが、金融業界が
以上に肥大化して強大な力を持ってしまった。
その結果各業界が寡占化し、資本主義本来の自由競争は
もはや機能していません。
宮崎
確かに、自由競争が効かなくなるほど寡占化してますよね。
堤
はい。医療分野など、自由競争の段階はとっくの昔に終わっています。
寡占化した医産複合体が、政治もマスメディアも
買ってしまっている。そうした枠組みの中で、
「全国民に民間の医療保険という商品を強制加入させる皆保険」として見てみると、
日本の国民皆保険とはまったく違うことがわかりますよね。
宮崎
定期的に病院で開いている読書会に参加しているドクターがこの本を読んで、
医療従事者も患者も誰も幸せにならない皆保険制度‥‥
これはホントなの?と言うんですよ。
歴史的背景として国づくりが巧妙に変えられてきたという部分を
広く理解しないと見誤るんじゃないかと思いますね。
堤
「こんなのは誇張ではないのか?」
「医者がそんなに苦しんでいるわけがない」
と言う方も中にはいらっしゃいますよ。
本当に患者のためになる制度なら、医療現場を誰よりも
よく知る医師たちはみな賛成したでしょう。
でも残念ながら実際は逆で、アメリカ国内の医師たちの大半が、
党派に関係なく、この制度に強い危機感を持って反対していたのです。
しかし日本の社会保障制度が変えられる時と同じで、
アメリカでも現場を知る当事者たちの声は国民には届かなかった。
そして何より、アメリカが過去30年にこんなにも変わってしまったことが
日本ではほとんど報道されず、そこが抜け落ちていることが大きいです。
日本では医療は「社会保障」という位置づけですが、
アメリカではずっと昔から医療は「商品」です。
ですからこの制度もいきなり出てきたわけではありません。
いろんなものを商品化していって、今回はたまたま医療保険だったのです。
教育、刑務所、農業でも同じことが起きている‥‥
そう理解するとそんなに驚くことはないです。
ビジネスモデルは全部一緒ですから。